電気刺激療法の新たなる可能性を拡げる「IVES(アイビス)」について
こんにちは
脳梗塞リハビリMe:RIZEミライズの理学療法士、城内洋人です。
残暑厳しいですが、皆さまいかがお過ごしでしょうか?
我々ミライズも残暑の暑さに負けることなく、日々リハビリを通して、脳卒中の後遺症にお悩みの方々のサポートに奮闘しております。
さて今回のブログですが、我々ミライズで使用しているIVISという電気治療器のご説明をさせていただきたいと思います。
以下に開発者のインタビューを記載させていただきます。
【電気刺激療法の新たなる可能性を拡げる「IVES(アイビス)」について】
脳卒中などの疾病により身体に何らかの障害が見られるようになった人が、その失われてしまった機能を 回復するためには、リハビリテーションを行うことは極めて重要になります。現代のリハビリテーションは、その人の障害の種類によって、「理学療法」、「作業療法」、「言語療法」の 3 種類のリハビリテーションが行われます。 これらの中で理学療法は、日常生活に必要な基本的動作能力(起きることや座ることや立つことなどの動作)を取り戻すために「運動療法」や「物理療法」を中心とするリハビリテーションを行います。 その運動療法ですが、まさにその名の通りに、患者さんが有する『運動能力』を高めることを目的として、 筋力強化や関節可動域を増やすための運動を行います。 一方、物理療法とは、物理的なエネルギーを用いるリハビリテーションのことを言い、さまざまな機器を利用して、牽引療法・電気刺激療法、温熱療法、マッサージ療法などを行います。
特に電気刺激療法は、日本のテクノロジーが得意としている分野ということもあり、さまざまな機器が開発 され、リハビリテーションに用いられてきました。それらの中には、例えば、麻痺(マヒ)が生じた部位の筋肉 に刺激を与えるために一定の時間、決まった電流を流す「低周波治療器」や、脳の大脳皮質を刺激するように電流によって磁気を発生する機器を頭部にあてて行う「磁気刺激装置」などがあります。そうした電気刺激療法の機器で、現在、各方面から注目を集めているのが、早稲田大学の村岡慶裕教授が開発し、医療機器メーカーにより製品化された『随意介助電気刺激装置』の「IVES(アイビス)」です。
※IVES:Integrated Volitional control Electrical Stimulation (device)の略
この IVES が画期的なのは、脳からの指令によって筋肉が収縮したときに発生する電気信号(これを「筋電」と言います)を電極で読み取り、それを増幅するように読み取った電極を介して、全く同じ筋肉に電気刺激を与えるという点です。これはつまり、脳が動かしたいと思った筋肉に正確にその刺激を伝えられるということでもあり、他の機器と比べて、リハビリテーションの効果を最大限に活かすことができます。ただし、理屈はそうであっても、実際にリハビリテーションの現場で使用できる機器を開発するためには、いろいろと越えなければいけない壁がありました。
そもそも身体が思ったように動かない、いわゆる麻痺(マヒ)と呼ばれる状態は、脳が身体の各部位を動かすために送る電気信号を神経が正確に伝えられなくなったことから起こります。具体的には、脳から発せられる『手よ、動け』という指令(電気信号)が伝わらなかったり、伝わっても動かすことができないほど弱かったり、間違った部位に伝わってしまったりしているわけです。その結果、動かしたい部位が動かなかったり、間違った動きをしたりしてしまうことになり、これが麻痺(マヒ)と呼ばれる症状なわけです。 IVES を生み出した村岡教授は、脳と神経の関係を研究した際、電気刺激装置と筋電バイオフィードバック を組み合わせた装置が開発できないかと考えたのが、IVES を開発するきっかけになったそうです。「麻痺患者の脳からの電気信号は数十マイクロボルト(数十万分の一ボルト)という、非常に微弱なものですが、それを正確に読み取り、バイオフィードバックとして、100 ボルト程の電気刺激により筋収縮を増幅できれば、自分の意思を筋肉に伝えることができ、それを繰り返すことで学習が進み、再び動かせるようになるはずだと考えました」 (村岡教授)。
しかし、それまであった類似の機器は、電気信号を読み取る電極と電気刺激を与える電極が別々であったため、すぐ近くに電極を貼ったとしても、どうしても数 mm から数 cm のズレが生じていました。「ほんの少し電極の貼る場所が違っていると、本当に電気刺激を与えたい筋肉に正確にその刺激を与えられず、間違った動きになってしまうことも多く、リハビリテーションの効果に限界がありました。ですから、電気信号を読み取る電極と電気刺激を与える電極を同一にできないかと考えたわけです」(村岡教授)。
そして、試行錯誤を繰り返したところ、見事にこの難問を解決し、それを使った IVES のプロトタイプが作られたのです。ちなみに、それは 1997 年の夏、まだ村岡教授が博士課程の 1 年目のことだったとそうです。
IVES が、どのような機器であるか、これまで簡単に説明をしてきましたが、どうして脳卒中などによって、 身体に障害を持った人のリハビリテーションに効果があるのかを詳しく紹介したいと思います。 既に触れていますように IVES は、麻痺(マヒ)により活動が低下した筋肉の電気信号(筋電)を読み取って、それを電気刺激によって大きく増幅させて筋肉に伝えることで、筋肉を動かすように促す機器です。健康な人であれば、何もしなくても脳から出る「動け」という電気信号が動かしたい筋肉に伝わり、思ったまま に動かせるのに、それができなくなって麻痺(マヒ)などが生じている人の電気信号を、再び正確に伝えるこ とができるように補助し、同時に訓練もさせることでリハビリテーションの効果を生み出します。 自分の『手を動かしたい!』という意思が、脳から筋肉へ伝わることを邪魔するのではなく、そっと優しくアシストするように作用するのが IVES だと言えます」(村岡教授)。 さらに、IVESの利点として挙げられるのは、脳が動かしたいと思った同じ筋肉に何度でも刺激を与えることができる点です。繰り返しすることで、やがて脳から発せられる電気信号が増幅され、それまで動かなかった筋肉が動く可能性が出てくることが期待でき、しかも、それは麻痺(マヒ)が起こった年数に関係ありません。「私の経験では 5 年間、足が動かなかった人に効果がありました」(村岡教授)。 さらに、「単純に電気刺激を与えて筋肉を動かすのと違って、“自分が動かしたいと思って筋肉が動く“ということから、患者さんのリハビリテーションに取り組む意欲が増すという心理的な効果もあります」と村岡教授は言います。この言葉の通り、脳梗塞などの障害においては『リハビリテーションを続ける』ということが非常に大事だからです。 ところが、楽にできるリハビリテーションというものは、なかなかありません。それだけに、患者さんのリハビリテーションに対するモチベーションをいかに維持するかということも、非常に大切な要素になるので、それを補えることができるというのは大きいと思います」(村岡教授)。 確かに、いくらやっても効果が見えにくいリハビリテーションを続けることは大変です。さらに IVES の場合、身に付けても負担にならない大きさのため、普段の生活をしながら使用できることから、効果が期待できながらも『リハビリテーションをするんだ』といったように身構えて使わなくてもいいというのも大きな利点なのです。
1996 年の修士 2 年生の時に修士論文のデータ収集のために、母校である慶應義塾大学の関連施設で あるリハビリテーション専門の病院「慶應義塾大学月が瀬リハビリテーションセンター(2011 年 9 月 30 日閉院)」に 1 週間ほどの予定で行った際、それまで自分で役に立つだろうと考えて作った機器が、現場では全く使い物にならなかったことから、患者さんを知らずに開発を進めることの危うさに気づいたそうです。それにショックを受けた村岡教授は、そのまま 8 年間センターに常駐し、患者さんに寄り添いながら、本当に必要とされる機器とは、どのようなものかということを考えさせられたことも IVES の開発のきっかけになったと言います。「1997 年の開発当時は、大きさが大型の辞書ぐらいありました。しかし、その機器を身に付けて、常に一定の微弱な電気を流すことで筋肉に刺激を与え、かつ必要な時には動かす訓練ができ、さらに、それを繰り 返すことが機能の回復に繋がるというためには、どうしても小型化が必要でしたので、その後は、回路を工夫し、いかに小さくするかに腐心しました」(村岡教授)。 「当時は大学院の学生で病院の敷地内に住み込んでいましたから時間だけはあったので、昼も夜もずっと『何とかならないか』と考えていました」と村岡教授。 そして、そうした“煮詰まった”状態で 4 年経過した 2001 年 12 月の夜、夢の中である回路のヒントが浮かんだそうです。「『これならいけそうだ!』と思った時に目が覚めて、急いで忘れないうちに メモを取りました」。 その夢が与えてくれた回路により、IVES が掌のサイズまで小型化されました。「とにかく、まずは携帯できるサイズにすることを目標として、試作品は 5 号機ぐらいまで作りました」と村岡教授は言います。
村岡教授が IVES を完成させた 2002 年当時は、世間で大学発の知的財産が脚光を浴び始めた頃でもあったことから、その流れに乗って村岡先生も『記録と刺激の兼用電極を使って随意運動の介助を行うことができる携帯型電気刺激装置』の特許を慶應義塾大学で取得されました。しかし、その時点では、まだ商品化 の目途などはなかったと言います。「当時、慶應義塾大学月が瀬リハビリテーションセンターのセンター長であった木村彰男教授が医療機器メーカーさんを紹介してくれて、製品化の話が一気に進みました」(村岡教授)。 そして、紆余曲折を経て 2008 年に完成した IVES が、遂に世に送り出されました。「IVES は、患者さんはもちろん、リハビリテーションを担当している専門医や OT(作業療法士)から『使ってみて効果がありました』などの声が多数寄せられています。早稲田大学に赴任してから、私は常に現場にいるわけではありませんので、直接、使用者や担当者からの声を聞く機会は、少なくなったのですが、学会 などでそういった喜びの声を聞くと、お役にたっていることが分かり、IVES を世に送り出すことができて本当に良かったと実感しています」(村岡教授)。 人間が本来持っている力を利用した機器とも言える IVES。今後、さらに広く多くの人が使うことで、きっと、もっと障害を持った人たちの希望を生み出すことができるはずです。
引用:開発者インタビュー『動かしたい』という気持ちに優しく寄り添う機器~IVES(アイビス)がリハビリテーションにもたらしたもの~
大変長文でしたが、最後までお付き合いいただきありがとうございました。
いかがでしたでしょうか?これほどまでに熱い開発者の想い。我々ミライズでも、このIVISの力を借りて、少しでも脳卒中の後遺症に悩む人々の力になれればと考えております。皆さま引き続き、脳梗塞リハビリMe:RIZEをどうぞよろしくお願いいたします。
脳梗塞リハビリMe:RIZE
理学療法士 城内洋人